薔薇とすみれ

薔薇とすみれ

"Roses are red." と聞くと、次に続く文章は"Violets are blue"。「薔薇は赤く、すみれは青い」。英語圏では知名度が高いこのくだり、愛を伝えるときの常套句です。認知度が高いゆえにパロディーも数多く存在します。

さて、なぜこんな話をし始めたかと言いますと、最近出会いのあったスージー・クーパーのお一人様ティーセットのパターンに使われているモチーフが薔薇とすみれだったのです。1940年代のデザインで<フレグランス>という名前のシリーズです。

フレグランス=芳香という名前なのだから、香りの良い薔薇とすみれを組み合わせたのでしょうと言って仕舞えばそれまでなのですが、英語圏では馴染みのある冒頭の詩。スージーさんがデザインを考える段階で、このナーサリーライムが頭をよぎったのではないかしらと考えると何だかワクワクしませんか?

当ショップの商品情報は、お茶タイムに使える小噺としても役立てていただければ良いなという思いで綴らせていただいています。ということでして、この句をご紹介するにあたって、ちょっと調べてみることにしました。

まず最初に当たったのは、イングランド民謡の図書館であり資料収集保存を行なっているヴォーン・ウィリアムズ記念図書館(Vaughan Williams Memorial Library)のデジタルアーカイブ。

"roses are red"で検索したら1件ヒットしました。

Gammer Gurton's Garland (1st edn, 1795?) pp.39-401 

イングランド人のJoseph Ritsonというアンティーク(古物、古書)専門・収集家が18世紀に編纂した詩集だそうです。『読むことも走ることも出来ない良い子のみんなの娯楽のための美しい歌と詩のセレクト集』なる副題が付けられています。2

初版は見つけられなかったので、デジタル化されている1810年版より抜粋させていただきます。タイトルはズバリ「バレンタイン」。なるほど、これ故にバレンタインデーの常套句なのですね。

THE VALENTINE.
The rose is red, the violet's blue,
The honey's sweet, and so are you.
Thou art my love, and I am thine;
I drew thee to my Valentine:
The lot was cast, and then I drew,
And fortune said it should be you.3

 

内容は、占いが盛んなイギリスっぽい道理の愛の詩でございました。くじと運命のコンセプトの使われ方にキリスト教の背景も感じます。

さてここで、すみれがなぜ紫ではなくて青なの?という疑問も出てきまして、調べていると、かの有名なスペンサー著『妖精の女王(原題:The Faerie Queene)』に辿り着きました。

It was upon a Sommers shynie day,
When Titan faire his beames did display,
In a fresh fountaine, farre from all mens vew,
She bath'd her brest, the boyling heat t'allay;
She bath'd with roses red, and violets blew,
And all the sweetest flowres, that in the forrest grew.4

この時代は、blueをblewと綴っていたようです5 こちらの長詩は、時の女王エリザベス1世の時代にあって、キリスト教における道徳教育の役割を担っていたそうなのですが、形式上は騎士物語でございます。ただ、寓意的表現が多すぎて、しかもご覧の通りのオールドイングリッシュ💦

本を読むのは諦めて、解説ものを中心に読み漁ったところ、上に取り上げた文章は第3巻の妖精の女王(☜クイーンエリザベス1世の寓意6)が処女懐妊する直前の神聖な場面であることがわかりました。燃えたぎる胸を露わに、赤い薔薇とすみれの青を浴びている描写があります。イギリスと言えば薔薇、そしてキリストの赤。そして、西洋絵画でよく見かける聖母マリアのマントは青。マドンナブルーとも言われますし、すみれもまた、聖母マリアの謙譲な存在と関連付けられた花だそうです。

ということでして、なんと16世紀まで遡ってしまいましたが、やはり紫よりも青と表記した方がキリスト教における色の意味を考えると辻褄が合いますし、当時紫はpurpulと綴られているので、韻を踏むのがこれまた難しそうです😅

調べているうちにすっかり薔薇とすみれが、愛に満ちて神秘的かつ甘美な空間🧚を映し出す花に見えてまいりました🧚

因みに、こちらのフレグランスシリーズ、イギリスのインテリア&ガーデニング雑誌『House & Garden Magazine』の1956年1月号に広告が出ていた模様。画像はこちら。蓋付のマフィンディッシュと、エッグカップを見つけることができたら、こちらの朝食セットの再現ができますね😉💕

 

フレグランスの商品ページはこちらです。

 

 

 

参照資料

Vaughan Williams Memorial Library, "The Valentine," Roud Folkson Index (S378055). Accessed: 19 May 2023. <https://www.vwml.org/component/rbdmdtallis2/?view=search&q=rn19798>

British Library, "Gammer G's Garland." Accessed: 19 May 2023. <https://www.bl.uk/collection-items/gammer-gs-garland>

Joseph Ritson, "Gurton's Garland The Nursery Parnassus," The Project Gutenberg EBook of, December 8, 2010. Accessed: 22 May 2023. <https://www.gutenberg.org/files/34601/34601-h/34601-h.htm>

Grosart, Alexander Balloch., Spenser, Edmund. The Faerie queene. N.p.: Spenser society, 1882.

Journal of the International Colour Association , "Reading medieval colour:The case of blue in The Canterbury Tales,". Accessed: 19 May 2023. <https://aic-color.org/resources/Documents/jaic_v29_04.pdf>

レファレンス共同データベース, "レファレンス事例紹介," 国立国会図書館, 4 June 2019. Accessed: 22 May 2023. <https://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000236983>

Journal of the International Colour Association , "Reading medieval colour:The case of blue in The Canterbury Tales,". Accessed: 19 May 2023. <https://aic-color.org/resources/Documents/jaic_v29_04.pdf> 

#イギリス文化に触れてみた #大人の知的好奇心 #ザビエル像の燃える心臓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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